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第4回シンポジウム「安全安心な日本社会へ〜英国における事故防止システムを参考に〜」

第4回シンポジウム「安全安心な日本社会へ
〜英国における事故防止システムを参考に〜」

東京理科大学総合研究機構 危機管理・安全科学技術研究部門

 
東京理科大 理事長
塚本 恒世氏
東京理科大
危機管理・安全科学技術研究部門長
板生 清氏
 
危機管理・安全科学技術研究部門
客員教授 弁護士 郷原 信郎氏
英国国会科学技術研究所 所長
Prof.Daivid Cope氏
 
 
Savills 上級顧問 中島 重喜氏
 
 
 
 
工学院大学 教授 畑村 洋太郎氏
 
 
ロンドン大学
ロイヤルホロウェイマネージメント
スクール 講師 楠元 みのり氏
 
立教大学 現代心理学部
教授 芳賀 繁氏
東京理科大学学長・藤嶋昭氏
 

(2010年5月25日号)

 東京理科大学総合研究機構 危機管理・安全科学技術研究部門主催による、「安全安心な日本社会へ〜英国における事故防止システムを参考に〜」をテーマに4回目となるシンポジウムが過日、盛大に開催された。特に、今回はDavid Cope英国国会科学技術研究所長が来日、『英国における事故防止のための制度と取り組み』について基調講演したほか、Savills上級顧問の中島重喜氏が『英国企業のコンプライアンス概念の立脚』について、更に郷原信郎弁護士(名城大学総合研究所教授、東京理科大学客員教授)が『日本における事故防止システムとコンプライアンスをめぐる問題』、また、郷原弁護士をコーディネータに工学院大学グローバルエンジニアリング学部の畑村洋太郎教授ら4名によるパネルディスカッション(割愛)も開催された。以下は骨子。


 冒頭、東京理科大学の塚本桓世理事長が「日本の危機管理はだいぶ良くなってきていますが、10年くらい前までは意識が低かったわけです。そんな中、当校の総合研究機構が扱う研究課題は非常に幅が広いほか、大きく言えば国と国との友好国同士、敵対国同士における危機管理の考え方があるでしょうし、昨今ありましたウイルスの様な国境を越えてくる様な危機管理、あるいは事故が起こった後の動き等、当校は理工系大学ですが、科学技術だけではなく、幅広く法律や心理学など多分野の方々の協力を得て考えていくことが必要と思います。それだけに、関係者だけでなく、色んな分野の方に参加頂き、総合的な危機管理の問題を検討頂ける場所になることを期待します。今日はイギリスにおける事故防止の制度・取り組みについての講演がありますが、こうした点ではかなり進んでいる国であると思われ、日本でも活かされることを祈念します。部門長である板生教授を中心に立ち上げて丁度1年が経過しました。意義あるシンポジウムであり、今後も発展していくために、多方面からの御協力をお願いします」と挨拶。
  続いて、板生清・危機管理・安全科学技術研究部門長が「当総合研究機構は1年前に発足しました。研究部が柱で、インテリジェントシステム、知識インターフェース、ものづくり・先端計測学などのほか、社会との関わりが非常に大切ということで危機管理・安全科学技術研究部門を設けています。安全安心は政府でも重要視しており、私もその一員として議論に参画しており、色々な分野において安全安心(情報セキュリティ、テロ、各種犯罪、社会全体の安全等7種)が叫ばれています。そうした課題の議論や技術開発、研究等をテーマに活動、また人材育成、国際危機管理に関する情報収集も行っています。更に、担当教授のほか、多く客員教授を設置しており、その中でも郷原氏は非常に活躍されているほか、同じグループに楠元氏も活動されています。つまり、危機管理部門は大きく4つの分野で活動しており、特に企業・国民生活のリスクマネージメント、コーポレートコンプライアンス、人間の安心安全です。今日もその関係の講演があります」と部門紹介した。
  また、郷原氏が「私は検察庁批判の代名詞として報道されていますが、本業は危機管理・コンプライアンス等に関した弁護士、及び大学教員です。検察庁の暴走もそうですが、そうした組織の危機管理・コンプライアンスの観点からシンポジウムを企画しました。3、4年前から畑村先生等と共同で事故防止の在り方、法制度との関係、事故防止のための責任追及と原因究明との関係などを考えてきましたが、今日の日本では法制度の在り方には根本的に問題があると思わざるを得ません。この際、日本のみならず、海外では事故防止に係る法整備がどう組み立てられているか、それを参考に日本の社会の安全安心実現のための社会システムの構築が必要です。
  今日はヘルス&セーフティーの上位組織となる英国国会科学技術研究所のDavid Cope所長をお招きし、イギリスのシステムの在り方、更にイギリスの企業のコンプライアンスは日本とどう違うかをSavills上級顧問の中島重喜氏にお話頂きます。また、日本の事故防止・原因究明を考えてきたメンバーの畑村教授、立教大学の現代心理学教授の芳賀先生にも参加頂きました。
  各分野の専門的な知見をぶつけて頂きたいと思います」と概要を紹介。早速、講演に入った。

 

 基調講演

『英国における事故防止のための制度と取り組み:説明責任の担保』

  • 英国国会科学技術研究所長 Prof.David Cope

 私が所属します国会科学技術研究所は国会直属で国会全体、委員会に対し意見を述べる機会があり、危機管理は最も重要視している分野です。我々のプロジェクトの中にある国会防衛委員会では、テロリストにより原子力発電所が攻撃された場合、どの様な危機管理を行うかについてプロジェクトを行いました。また、こうした国会直属の科学技術に関する研究機関はヨーロッパには19の機関があり、ネットワークを組んでいます。丁度、先月にアメリカの同様な研究所もメンバーに入りました。一方、残念ながら日本にはこうした国会直属の科学技術研究所、リスクアセスメントを行う機関はなく、今回来日した目的の一つが、現在、英国国会や我々研究者が日本の国会議員、省庁の方々と協力関係を構築することであり、話し合いを進めています。
  本日は「英国における事故防止のための制度と取り組み:説明責任の担保」をテーマに頂きましたが、これから話す内容は私個人の意見として受け取って頂きたいと思います。その前に、英国の歴史を少し触れると、産業革命を最初に経験したことで、最初に産業事故を経験しました。代表なものが、1879年に鉄道用橋梁ではない“ティーブリッジ崩落”という大きな事故がありました。
次に紹介する大災害事故というのが、1986年にウェールズで発生した炭鉱事故により、下流にあった小学校で100人以上の児童が亡くなりました。これを契機に、炭鉱事業は悪いイメージが伴い、結果的に終息を速めました。このほか、産業拡大に伴い1960年代、1970年代には公害が大変な社会問題化しました。例えば、窯業の傍に民家があり、当時のロンドンはいつも夕立前の様な空ばかりでした。
  一方、アレクサンダーシェンクラム氏は一番最初に動いた結果、否定的な効果が生まれた事を説きました。それまで産業革命がおこった国・地域が無く、比較できるモデルがなかった事は、自分達で失敗し、そこから学ぶモデルを作りだしたというものです。大変なコストと時間が必要だったという経験から、こうした失敗こそが、他の国に参考になることを祈念します。その後、1980年代にリスクアセスメントに関する研究が進み、『政府の責任として国民にできるだけ安全安心な社会を提供する事。更にリスクを取り除くためにはあらゆる努力を行わなくてはならない』と言うものです。その後、政府の考えとして引き継がれてきています。しかし、反対の議論もあり、“乳母にお世話されている国・英国”という皮肉な言葉があります。安全安心な社会を提供してもらいたい半面、余りお世話ばかりされるのを好まないというものです。間違った神話もあり、行き過ぎた規制という批判があります。サンクスギブンの日には目・顔に被害を与える危険があるため、『キャンディーを投げないでください』といった規制など、毎月、新しい規制が施行されることを危惧します。それから、物理的な安全な規制に関して、防衛、社会保障、経済、金融等の分野がありますが、政府がどのようにシステム化し、バランスを取るかが政府の役割です。色んな分野において危機管理は行われていますが、環境庁と英国保健安全保障局が最も多くの予算支出を占めています。また各市町からの公務があるかでは、一番多いのは金融関係、ペンション関係、4番目には保健安全保障局です。それだけ、要求される事務処理も大変多い事を示しています。そのため、国会は3つの大きな役割があります。一つは安全な社会を提供するシステム作りをセットアップする役割、次に政府や行政により規制されているか監査・モニターするチェック機能、三番目に市民の捉え方に関するチェックです。
  さて、事故防止の話に移ります。日本では2005年に発生したJR西日本・尼崎線で非常に悲惨な事故が発生しました。以前、同志社大学の講師をしていた時の一人の教え子が、この事故の犠牲者になりました。UKでは1952年以来、同様な大きな鉄道事故は発生していないものの、2004年には76人の鉄道事故犠牲者が発生するなど、鉄道事故には高い関心があります。鉄道に関しては鉄道管理局という独立した機関があり、その中で安全と金銭管理を行っていますが、英国の航空局は独立した機関ではあるものの、運輸省下にあるというより、国際的な航空運営のコーディネーションの在り方を重視している点で違います。また、船に関する独立機関にマリン&コーストエージェンシーがあり、1960年代以降、船舶が沈没した際の海への公害影響に重きをおいています。最後に自動車に関する機関のみ、警察介入があります。個人の責任を非常に問うため、警察が介入する訳です。英国ではこれらを統括するのが保健安全保障局です。もう一つ、健康安全上のリスク管理をするものにヘルスプロテクションエージェンシーがあり、インフルエンザ等の病気、放射線リスク等に関する仕事を行っています。もう一つ、環境省の下にある環境庁では環境問題を扱っており、こちらは私の専門の一つです。
  また、4年前に国はリスクマネジメントに係る役割レポートを出しました。この中で最も注目されるのは、バランス(=直接・間接・社会的コスト、金銭的コスト=)を、どう支出と生活価値への貢献としてバランシングしていくかです。これまでは政府の役割などについて話してきましたが、最後に個人の説明責任については、どの様にアドレスされるべきか、今後の学術的な研究が必要です。


講演1

「英国企業のコンプライアンス概念の立脚:日本・英国の建設業界の比較を例に」

  • Savills上級顧問 中島 重喜氏

 私が所属するSavills社とは、160年の歴史を持つ英国(ロンドン)で上場している不動産コンサルタント会社で、日本には同様な役割を持つ企業は存在しません。それは、永い植民地政策に伴い生まれたためで、不動産鑑定・売買から農地コンサルタント、住宅売買など不動産に関するデパートです。同時に必要資金の貸付け等も行います。また、固定資産税について、市民や企業の払い額減額を政府・行政と折衝します。というのも間違いが多いからです。私が扱うのは日本企業の英国進出などに伴う不動産に関するアドバイスなどです。私自身、日本、アメリカ、英国企業などのビジネスを経験したユニークな存在と自負しており、一方、今日話す内容は経験した人が殆どいないほか、日本国民として外国での考え方の違いを知る事で、何か支援・アドバイスになるものと考えます。つまり、ソフトウエアに関する話です。
  イギリス、もっと言うとアングロサクソンの世界では“利益相反”(COI)の概念があります。世界の仕事では、この考えなしにありえないというのがアングロサクソンの世界です。その“利益相反”とは目に見えるものではなく、あくまで状況です。これは、同時に、二つの仕事、目的、役割などが平等に、公平に取り扱われることが不可能な状況と言う意味です。色んな分野でCOIが発生しますが、建設についてお話します。日本で言う建設業法は「請負」であり、建設業者を許可制で絞り、国土交通省では必要に応じて検査権・監督権があり、最後に違反者を罰します。請負は義務であり、施工権利も発生します。日本の場合、契約において、まず施主とゼネコンの間で請負契約を作り、その後ゼネコンが下請けとの間で契約後仕事を回します。契約自体単純ですが、ゼネコンは施主に対し、下請けの管理報告や仕事(お金、工程、品質、設計)を報告します。この行為自体はゼネコンが施主のために工事しますが、ここに問題が発生します。というのも施主とゼネコンの間に利益相反、つまり、施主は出来るだけ安く、早く、一方、ゼネコンは安く、良い物を建設するという経済理念が働くため、両者は共に反するわけです。また、請負額は非常に複雑です。例えば、100億円の請負額があった場合、請負契約書、数量表、図面、行程表等がパッケージとなっているのが一般的です。問題は工事進行が遅れた、設計が間違っていた、追加料が必要、といった場合、元請けは施主に対し様々な提案をします。その際、例えばJRやNTTといった大企業は自分の方で管理機能を持っており、そういった場合、『上手く処理していますよ』と言う場合が沢山あると思います。これは素晴らしいことですが、利益相反があっても日本では誠実性が高く、結果、悪い事は少ないケースが多いのが事実です。逆に言えば、これだけ脆弱なシステムの中、信頼関係だけで実施される事は、ヨーロッパやアメリカ等ではありない事です。日本は上手く行っているからこれで良いかと言うとそうではなく、結果、不正献金のベースになったり、徹底不足から強度不足による耐震構造が保てず取り壊しになったり、更に、養生の仕方によって適切強度に至ってないため崩落するなど、色んな事案が発生しています。では、何故そうしたケースが発生するかがポイントで、結果からいえば、日本の現状システムは起きるのが当たり前です。と言うのも、元請けの中に利益相反を犯す要件を備えているからです。ここで、もう一度、利益相反について説明しますが、これは同時に二つの目的(利益)を平等に扱えない状況です。従って、「元請け」と「下請け」の間にはどうしても利益相反が発生します。クライアント(施主)に施工に関する情報収集力がなければ、ゼネコン側からの情報を鵜呑みするしかありません。もちろん、ゼネコンには施工完了義務があり、同時に施工権を持ち、民法上、施主は元請けに対して施工干渉をあまりできません。一方、英国の請負業法では、施主が建設を元請けに任せても検査権・監督権を持っています。しかし、日本の場合、もし施工において耐震偽装等が発生した場合、元請けは施主に対して依頼された設計通り施工する義務があると同時に適正な施工料を頂く権利もあり、ここに“機密”が発生してしまう訳です。誠実な企業は取壊し、再度施工するでしょうが、そこで“保険”や“罰則規定”だけで処理してよいのか。こうしたものは事後処理の問題であり、ポイントは、まず発生させない事が重要です。英国での保険適用は自分達でコントロールできない時で不具合が発生した際適用するものですが、日本では事後処理のため保険や罰則規定を適用させます。本筋ではありません。
  では、どうしたら良いか。一つの善処事例となる英国の事例を紹介しますが、これをそのまま日本で当てはめるのは、建設市場の構成が違う為、難しいと思います。英国では、施主、元請け、設計がある場合、施主は元請けと直接契約を結びますが、施工できないためアドバイザーを置きます(契約します)。そして、元請けと直接交渉するのはアドバイザーであり、施主は自分が雇った“工事原価管理技士”とのみだけ情報を得たり、交渉するだけです。つまり、工事原価管理技師のみが施主の守護神となる訳です。では、日本では元請け一括請負契約がありますが、英国ではコストと設計・施工、固定費を組み合わせた契約です。ここで、必ず工事原価管理技士が参加します。というのも建設契約には不正が必ずあるということを前提にしているからです。繰り返しですが、日本ではこうしたシステムが無くても上手くいっているケースが多いのは誠実で素晴らしいことです。
  結論から言うと、英国の様な工事原価管理技士制度の様なものを国土交通省で制定して頂き、請負金額が1億、2億といったある上限を超える場合、そうしたアドバイザーを雇用するシステム(法制度)を導入することを、個人的に提案します。そうすれば、国交省の役割が増えるほか、正しい施工金額で法適用の建築物が施工でき、更に建設関連の雇用拡大も確保できます。最後にこうした制度が定着すれば、他の不動産、金融業界などへの浸透も期待できます。また、逆に言うと、グローバル化の今日、利益相反と言った考え方を取り入れなければスムーズな発展は難しいと言えます。反対に導入されれば、正しい金額、手順、管理で正しい建築物が施工され、結果、安全な完成物を施主に提供できます。


 講演2

「日本における事故防止システムとコンプライアンスをめぐる問題」

  • 東京理科大学 危機管理・安全科学技術研究部門 客員教授
    名城大学 総合研究所 教授 弁護士 郷原 信郎氏

 日本における事故防止の問題について、事故の原因究明と責任追及に関係についてお話します。この問題の根本には、罰則の適用(刑事罰)が事故の原因究明と責任追及において大きな役割を果たしてきましたが、同時に大きな問題をはらんでいると認識してきました。
  では、事故に関して日本ではどういう考え方で責任追及されてきているか。通常、適用される罪名は業務上過失致死傷罪です。人が死亡、あるいは怪我をした場合、それは個人の過失が予見可能であり、排除するために何らかの作為・不作為を行えたのにしなかった為、結果、死亡や怪我した事の間に因果関係があり、それを業務上過失致死傷罪とし、個人の犯罪が認められるかを立証するため犯罪捜査を行います。これが多くの場合、日本の事故に対する原因究明で、そこに色々な問題が生じます。まず、個人の責任だけしか問わなくなると、事故原因にはヒューマンファクターや企業体質など多くの要因が考えられる中、特定の個人に落ち度があったとする小さな原因だけに着目し、犯罪になりえるかだけの観点で捜査していきます。従って、その事故を起こした原因の本質は何か、その原因を排除すれば同様な事故を減少できるかではなく、事故の責任追及中心に原因究明が行われ、本当の意味での原因究明は十分に行われてこなかったのが、これまでの事故防止を巡る制度の最大の問題です。2つの例を挙げ、検証します。
  一つは、シンドラー社製のエレベーター事故に関して起きた“シンドラーバッシング”で、結果的にエレベーター事故の原因を究明し、同様なエレベーター事故の再発を防止する観点からは、非常に大きなマイナスを生じた社会現象でした。国内でビジネス展開を行うのが難しくなった点、企業側の対応、また日本ではこうした事故をどう認識・対応してきたか、更に制度的な問題などです。まず、企業側は重大な事故が発生した際、どう対応すべきか。外国企業でもあったため初期対応で誤りがありました。事故後のシンドラー側の対応の問題は法的な責任を負うかどうかでした。そのため、警察の捜査に協力し、法的責任を負わないという事が判明すれば、メーカー側の責任ではなくメンテナンス・保守業者側に問題があると、単純に考え対応した事です。結果、社会への説明、遺族に対する説明・謝罪などを行わず、警察への捜査協力のみを優先したことで大きな反発を受けました。挙句の果て、この事故に関して悪いのはシンドラーのみという思い込みを(遺族を含め)社会全体が認識してしまいました。当初、警察捜査の見通しはメーカー(シンドラー)の責任を問うのは難しく、メンテナンス業者のみの責任追及しか出来ないという流れでしたが、社会全体がメーカーが悪者というレッテルを貼った以上、最近の刑事法機関は社会認識に反する結論を出せないというのが、同様な事故における共通した現象です。簡単に言うと、警察の捜査は、社会全体が一番悪いとしたシンドラーエレベーターの責任を問わない形で捜査を終了する事が出来ないわけです。事故後、3年以上経った時、結論は(日本法人も含め)シンドラーエレベーターの幹部を業務上致死傷罪で検察庁に送致するというものでした。
  結果、私には理解不能な、メーカーと保守メンテナンス業者の両方を業務上過失致死傷罪で起訴するに至りました。この事故に関する刑事責任の追及が、何をもたらしか。3年以上の捜査により、責任追及を目指し、事実解明が行われました。本来、なにが原因か、今後同様な事故を防ぐには何が効果的か、といった経験値を得る事ができませんでした。改めて見ると、今回の事故は色々な要因が複雑に絡んでいた事は明らかです。 
  第1は、エレベーターの規格です。海外規格は(昇降に)ダブルブレーキシステムがあるのに、日本では“籠”が落ちる事故のみを想定した規格しかなかったと言う事です。直接的な原因は保守点検が極めて不十分で、ブレーキ摩耗を見過ごしたこと。また、救護に40分も掛ったことなど様々な要因が重なったため、(窒息死による)被害者が出ました。こうした観点から今後の対策を考える必要がある中、経験に基づく情報を得る事が3年以上の捜査中、出来ませんでした。日本でもダブルブレーキシステムを認識し、国土交通省が規格化したのは、事故後の3年半経過した昨年秋です。しかも、建築基準法では既存不適格を問わず、既に設置されたものは規格が変更されても変更する義務はありません。事故の責任追及のため、そのことばかり社会が注目し、社会が誤った認識を持った事が前提となり、長期間の警察捜査だけで事故原因が究明されるシステムでは、事故からの経験値を得る事は、日本の今のシステムでは不十分で、欠陥です。それは制度自体の問題もあり、企業は法的責任ばかりに特化する対応では、社会全体でも大きなマイナスをもたらす事が、この事故の教訓です。
  もう一つが、JR西日本福知山線脱線事故です。加害者であるJR西日本側の事故直後の対応がまずかったため、JR西日本に対して激しい社会的非難・批判が浴びせられ、最終的に通常では考えられない刑事責任の追及が行われ、その先に昨年秋に明らかになったJR西日本と事故調査委員会との不正な情報のやり取り・働きかけ問題が派生的に生じ、これらが鉄道事故を巡る事故防止システムにも大きなマイナスの影響を生じかねないと捉えられます。
  問題には、事故車両に乗り合わせた社員が、救護もせず会社出勤したほか、当初、原因を“置き石”説としたことなど、法的責任に主眼を置いた対応から社会から大きな反発・非難を浴びる事になりました。また、事故調査委員会の調査協力では会社側を正当化する主張を繰り返した事も、社会から大きな反発・避難を浴びる事になりました。
  このため、シンドラーエレベーター事故同様、責任追及を行われない限り、世の中が納得しないという社会風潮が生まれました。そして、最終的な刑事結論は、事故の8年前の鉄道本部長を業務過失致死傷罪で起訴しました。この判断は、無茶苦茶で論外です。ATSの不整備が事故防止出来なかったというものですが、実際は当時の運転手のパニックから制限速度40kmオーバーでカーブに突っ込んだため起きたものです。これを、8年前に予見可能とする判断はどう見てもおかしいです。しかし、検察側はJR西日本を起訴せざるを得なかった。遺族の怒り、社会の非難・批判から責任追及なしでは収まらなくなってしまったためです。
  更に、事故の不正働きかけも発覚し、より大きな非難・批判を浴びる事になりました。『当然だ』と―。
  結果、二つの事故を見ても個人の刑事責任追及ばかりに事故原因究明が偏り、客観的な本当の原因追及に至っていない事です。専門的な事故調査委員会が既に発足したにもかかわらずですが、結果、「厳正・公正・中立」は成り立たないという事になりました。
  結論を言うと、発生した問題を客観化するシステム・客観的・専門的な事故原因の分析を行うシステムが欠如していたり、更には事故原因調査体制の不備、事故に関する情報が警察に集中することなどです。今後、事故原因を客観的に究明できる制度確立や社会全体による事故原因究明・責任追及の関係、更に事故防止システム・組織の対応を見直すと同時にクライスマネージメントのレベルを高める必要があります。


 講演3

「ヒューストンのエレベータ事故に学ぶ」

  • 工学院大学 教授 東京大学 名誉教授 畑村 洋太郎氏

 2003年8月16日、アメリカ・ヒューストンで日本人医師が上昇エレベータで頭を挟まれ、頭が砕け亡くなりました。結果を言えば、その原因はメンテナンス・検査による配線戻しでの誤接続でした。ものを変えた時に、ミスが入り込むという事です。
  そもそも、この事故を調査する切っ掛けになったのが、2006年に発生した東京港区共同住宅での男子高校生が上昇するエレベータに挟まれ死亡した、シンドラー社のエレベータ事故でした。この事故後、自分の掛かり付けの医者から、『僕の知り合いの子息(二階堂ヒトシ氏・医師)が、アメリカでエレベータに同様な事故で亡くなった』と聞きました。そうした事故原因の情報が日本に入っていれば事故は防げたかもしれないと考え、ヒューストンの事故調査に行った訳です。
  現地では、遺族、病院、行政(ヒューストン市)のエレベータ等の規制を決める責任者等に会いました。特に、死亡した子息のお父さん(二階堂医師)に会う為、ダラスの自宅に伺った時、その事故を調査した調査業者を家に招いており、その方から詳しくお聞きできたのは、不思議でした。というのも、日本にはこうした事故を調査する業種がなく、業務上過失致死傷罪ばかり追及するからです。
  一方、事故が発生した、セント・ジョセフ病院は大規模な立派な病院でした。そして、事故が発生した場所(第14号エレベータ、実際は事故後、新しいものに変更済み)を見せてもらえましたが、最初、担当者はとても嫌な顔をされていましたが、どういう理由で日本から調査に来たかを説明したら、最終的には副理事長(女性)からとても好意的に受け入れられ、現場見学はもちろん、メンテナンス係などからも詳しく説明を受けました。彼女曰く、『私はきちっと応対するのが自分の責任です。すべて見せます』と言われ、事故と同型の別のエレベータまで見せて頂きました。アメリカの病院役員になると、とても職業観の強い方がいるものだと、感心した次第です。そして、病院の事故があったのは、オーチス社製エレベータでしたが、事故原因は病院から点検依頼を受けた保守会社が点検する際、結線した状態では点検ができないため、ひとつずつ配線を外して電圧を測り、元に戻す時、誤接続してしまったため安全回路が働かなかったという事でした。ところが、詳しく聞いたところ、こうした保守点検での配線接続ミスが発生しやすいため、起こらない製品への変更を保守メンテナンス会社が早い時期に病院へ申請していたにもかかわらず、一基変更に200万円が必要で、病院全体で約34基あり、結果、6000万円強が掛かる為、病院が経費削減から取り替えを拒んでいた中、事故が発生したというものでした。
  また、説明で「証拠写真」を見せて頂きましたが、これは事故が発生した時、被害者(個人)と加害者(病院)が争う時に証拠が必要ということで撮った写真でした。しかし、病院側は事故で評判が下がるのを恐れ、原因説明をねつ造しました。『お酒で酔っ払っていたから、事故になった』と。そこで、遺族は調査士を雇った結果、事故原因はエレベータを管理する回路に異常があったはずと論理的に考え、実際、回路写真を撮影する前に病院側から一つの写真を提示されたそうです。そして、調査士が経過などを全て説明してくれました。また、亡くなった人のお父さんである二階堂さんもダラスの子ども病院の医院長でしたが、インチキを見抜いていたが病院側とは争うつもりはなかったものの、余りにも対応が杜撰(ずさん)だけに、調査士を雇って徹底的に調査したということでした。また、調査している時、ASME(アメリカ機械学会)の上席検査官が安全基準を教えてくれました。基準の一つ、「ASMEコード17・1」を2000年3月に策定したそうですが、これに基づいて賛同(採択)すれば州毎で導入されます。例えば、モーターの軸のブレを検知するエンコーダや滑車ロープの非常停止装置などがあります。こうした装置が既に開発、基準化されていたのに、今回の事故では病院側が経費削減から導入を阻止したため起きたものでした。
  調査で分かったことは「時系列進行図」で表わすと、大変はっきりします。そこには、背景、設備や保守作業、配線図をはじめ、エレベータの動き、起こった事故の現象、その後の病院の対応や遺族、調査士、弁護士、マスコミなどのほか、後始末、文化の違いなどをステップと時間で分けながら図で表記したものです。また、事故後の当事者間の関係を同じく時系列進行図に表すと、非常に分かり易くなります。
  今回の事故では、病院側に落ち度があるにもかかわらず被害者に落ち度(酔っ払い)があったかのように嘘の血液検査を公表した結果、遺族は裁判を決意、事故調査を進めたところ、嫌がらせ電話などの圧力があったため、事実を新聞に流し、記事として公表した結果、病院側は誤配線が事故原因であったことを認め、その後、和解が成立しました。
  失敗を時系列で見る事、また、国毎の比較をすると、違いが分かります。日本は戦前は警視庁がエレベータの監督をしていましたが、旧・建設省が担当する事になった事だけ見ても進歩しました。また、欧米で参考になる事を翻訳しますが、社会で必要な場合、関係する法律を策定する事は日本では中々難しいのが現実です。
  一方、責任の範囲は米国と日本では考えが全く違い、米国では刑事責任の範囲が狭く、後の始末はやりたいならなれ、やる奴がいれば良いと言うのに対し、日本は刑事責任の範囲が広く、誰か悪者を作って一件落着とします。また、原因究明はどちらも不十分で、特に日本では業界団体や監督官庁はありますが「職能集団」はなく、事故の再発防止を目的とした原因究明・知識化等を行う、独立した公的機関が必要です。また、社会全体の考え方を時代の変化に合わせて変える必要性があります。


「英国のシステムは日本社会にどう役立つか」

  • ロンドン大学 ロイヤルホロウェイ校 経営大学院講師(国際経営学) 
  • 東京理科大学 危機管理・安全科学技術研究部門 客員准教授 楠元 みのり氏

 「責任追及」と「原因究明」が、なぜ事故防止につながるかを考えてみました。というのは、私がロンドン大学ロイヤルマネージメントスクールの講師に就任した直後、理系の工場で爆発事故が発生したのは、二つの薬剤を間違って混ぜた結果、起こった事故でした。では、事故は防げたかどうかです。英国では2010年に「The Health and S afety of Great Brit ain:Be part of the solution」、つまりHSE(保健安全局)は英国の安全哲学と原理を法的枠組みで追求する事からはじめました。まず、原則ですが、刑事責任及び民事責任を、雇用者が従業員または、活動によって影響を受けた人々に対して責任を持つことであり、2つの法律の形をとります。
  一つがCommon Law、つまり、裁判所に置ける方向性を示したもの、もう一つがStatute Lawつまり、成文法によって可能になるものです。では、その原理は何かといえば、民法・刑法・裁判所と法廷です。また、Health and Safetyのマネジメントとして、まず、ポリシーと哲学があり、関係者(学者、調査会社など)、またパフォーマンスを測定し、これらチェック機能をグルグル回しているところが特長です。そして、事故の防止にはプロアクティブ、かつ反応的モニタリングの両方が必須の要素です。そこには(1)積極的モニタリング(2)プロアクティブモニタリング(3)事故の定義付け(4)安全な場所(5)安全な人(6)事故後といった戦略が考えられます。まず、事故を防止する上で、定義付けとして、事故を予想していなかった事やコントロールできなかったことがおこり、施設が損傷したり、人が傷ついたり死亡することです。根本的には事故は予測できなく、計画したものや意図的なものではないが、多くのケースで間接的・直接的な原因が認められます。
  一方、安全な場所戦略で見た場合、安全なシステムではデザインと施行、これは情報であったり、インストラクション、トレーニングを十分与え、デザインの段階で危ないものを除去していく事が大切です。また安全なプロセス、つまり敷地内の交通事故等も想定して、安全な業務関連機械、物質の使用プロセスなどを考えます。安全な敷地では、デザイン、レイアウト、構造、火災想定したスペース等です。更に、安全な装置として、業務設備には機械、施設、リフトトラック等動く機械も含まれますが、これらの設備のメンテナンスが絶対必要です。
  このほか、安全な物質を見た場合、灰、アルカリ、可燃物等の取り扱い、安全なアクセスと退出として、入退出には特定の高さ、広さ等を想定する事が必要です。安全な人戦略としては、人は間違える事があり、間違えは事故につながります。また、未熟や知識経験の欠如が事故につながる事もあります。では、こうした過失を犯したため罰せられたから、同様な事を起こさない=抑止力になるか、です。
  また、人身保護用具(PPE)の開発や活用、弱者(若年者、高齢者、妊婦、身体障害者など)保護、更に衛生上のトレーニングと情報、危険警告、それと事故後の戦略として、フィードバック戦略では安全マネジメントシステムにおいて、事故の調査からフィードバックは絶対に必要な事です。これによってしか組織も個人も間違いから学べないし、将来、事故予防戦略にいかせるような調査結果からリコメンデーションもあげられません。
  次に、英国の民法と刑法について、どちらが事故の防止に役立つかを考えてみました。民法の対象は賠償、刑法は処罰です。また、H&Sのリーダーシップの全て説明責任にあるとしています。このほか、担保されるべきものは、調査と正義で、まず調査があり、それにより正義が成り立つとしています。そのためには、HSWA(Health and Safety at Work etc Act)の下に任命されたインスペクター(調査官)が持つ執行手続きの権限がいかに強いか、が20条の中で決まっています。必要に応じて、いかなる場所にも立ち入る事が出来るほか、治安関係者を連れて行く事や発見されたいかなる物もサンプルとして持ち帰る事ができ、必要なだけ保存し、試験、証拠として有効化を調査できます。同時にバランスが必要であり、他の行政機関とのバランスをきちんととるほか、規制は守られるべき人全ての利益となるべきとしています。
  また、英国において事故調査に関して必ず守らなければならない事が10項目あります。(1)客観性と公平無私原則の維持(2)適切な力量をもった調査チームの編成(3)事故の時間的連続性(4)証拠の収集と保存(5)事故現場に関する書面化(6)慎重な計算(7)仮説(8)法的責任と規制関連事項(9)推奨と勧告(10)フォローアップ―、以上、事故調査のポリシーと手順が指定の形式で細部まで指定されています。これらの根底に流れているのは、コンプライアンスの担当者は能力や機能範囲が非常に広い事も特長です。更に、権力の分離と実力は分配されるべきで、立法権、執行権、及び裁判権を互いに原則として独立な機関として分配されることが重要です。というのも、過去の極端な主専制的から学んだためです。それにより、国家権力を様々に分割する事で、それらが互いに阻止し合い、侵害を相抑制することが最も理想的です。
  では、どの様に政治改革がはじまったかというと、1995年に始まった改革プログラムで、政府は積極的に法的枠組みと制度を整備すべきというものです。また、今後必要と考えるのが、これまでバラバラに分かれていた基礎知識の次に応用知識があり、その次に専門化知識と実践というものをコーディネートした、積立型学習です。それには皆様の御協力、研究機関への御支援が必要です。


パネルディスカッション

 その後、郷原氏をコーディネータに、芳賀繁・立教大学現代心理学教授、Prof.David Cope、中島重喜氏、畑村洋太郎氏、楠元みのり氏によるパネルディスカッションも開催され、最後に藤嶋昭・東京理科大学学長の閉会の挨拶で散会した。